能登半島沖の活断層と群発地震


逆断層による隆起

能登半島沖では、2007年に門前沖でM6.9、2024年に能登半島北岸一帯でM7.6の地震が発生しました。 逆断層型地震の場合、地震で断層がズレると断層面の上盤が下盤に対して乗り上げます。地震が繰り返されると地形は隆起していきます。
図1は、海底地形の高低差が分かりやすい画像(資料1)に活断層のライン形状などを書き込んだものです。 図2は、活断層の震源断層情報(資料2)をもとに震源断層面、上盤の動く向きを描画したものです。
能登半島北岸の地形を大きく隆起させているのは、能登半島北岸断層帯です。猿山沖、輪島沖、珠洲沖の3つの区間に分けられていますが、2024年の能登半島沖地震では珠洲市直下で断層が破壊開始、26秒後に輪島市と能登半島北東沖でも断層の連動破壊が起こり、北岸断層帯全域を越えて隣接する門前断層帯や富山トラフ西縁断層まで余震が及ぶ大地震となりました。この地震で輪島市西部で最大約4m隆起しました(国土地理院)。
図1 能登半島沖の主な活断層図2 活断層の震源断層面

表1 主な活断層
断層名断層型位置(緯度、経度、深さ)長さ走向傾き備考
門前断層帯:門前沖区間、海士岬沖区間 全体の長さ 38km
・門前沖逆断層(南東側隆起)37.18°, 136.48°, 0km23km17km62°60°14-1 2007/03/25 M6.9
・海士岬沖逆断層(南東側隆起)37.05°, 136.40°, 0km18km17km34°60°14-2
能登半島北岸断層帯:猿山沖区間、輪島沖区間、珠洲沖区間 全体の長さ 94km
・猿山沖逆断層(南東側隆起)37.30°, 136.70°, 0km24km21km47°45°16-1
・輪島沖逆断層(南東側隆起)37.47°, 136.90°, 0km23km21km77°45°16-2
・珠洲沖逆断層(南東側隆起)37.53°, 137.15°, 0km47km21km58°45°16-3 2024/01/01 M7.6
羽咋沖東断層逆断層(西側隆起)37.07°, 136.53°, 0km30km17km176°60°10 2024/11/26 M6.4
七尾湾東方断層帯:城ヶ崎沖区間、大泊鼻沖 全体の長さ 43km
・大泊鼻沖逆断層(西側隆起)37.12°, 137.17°, 0km25km21km186°45°20-1
・城ヶ崎沖逆断層(北西側隆起)37.25°, 137.33°, 0km21km21km224°45°20-2
飯田海脚南縁断層逆断層(北側隆起)37.33°, 137.70°, 0km31km31km256°45°21
富山トラフ西縁断層逆断層(西側隆起)38.12°, 137.90°, 0km61km21km203°45°22
位置は、震源断層面上端の左端に近いライン開始点

断層地震と群発地震

能登半島沖では、短時間に大きな破壊をもたらす断層型地震だけでなく、多くの微小地震を発生させる群発地震が同時に起きています。群発地震の原因は地下深部からの流体(水)の移動とのことです。地下から湧き上がってくるようなイメージがある群発地震の形状を探ってみました。
断層がズレると断層面沿いに震源データが多く分布します。この断層面沿いのデータを抽出します。そして、検索範囲の震源データから断層面沿いのデータを取り除けば、群発地震の形状がみえてくるのではないか。
断層面沿いのデータを抽出するために、資料2から活断層の震源断層面のスペック(長さ、幅、走向、傾き)を参照し、活断層の海底でのジグザグラインを含む平行六面体を表2のように設定しました。
震源データは一元化データを主に使用しました。震源データに対応する防災科研データがあるときは防災科研解析の深さ情報を使用、海底の深さより浅いデータは海底の深さを使用しました。
検索範囲は、図3の点線範囲(中心:37.50°、137.25°、長さ100km、幅60km、回転55°)です。検索したデータが表2の6コの震源断層領域に含まれているかをチェックし、震源の深さ5km別に色分けして描画しました。

表2 活断層スペックによる震源断層領域(平行六面体)
領域位置(緯度、経度、深さ)長さ奥行走向傾き備考
門前沖37.215°, 136.590°, 0km23km17km8.0km62°60°14-1
海士岬沖37.090°, 136.458°, 0km18km17km8.0km34°60°14-2
猿山沖37.365°, 136.790°, 1.1km24km21km9.0km64°45°16-1
輪島沖37.460°, 137.030°, 0km23km21km9.0km77°45°16-2
珠洲沖37.610°, 137.363°, 1.1km45km21km9.0km55°45°16-3
富山トラフ西縁37.830°, 137.840°, 1.5km61km21km10.0km204°45°22
位置は平行六面体の上面の中心、「奥行」は上面(長方形)のタテ、「長さ」はヨコに対応

図3 震源断層領域(平行六面体)

[2007/03/25 - 2007/04/30の地震活動]

2007/03/25に門前沖の深さ8km(防災科研データ)で本震M6.9が発生しました。
検索データ 6774件のうち、断層沿いのデータ(震源断層領域内)は6155件 (91%)、震源断層領域外は619件 (9%)。[防災科研データ使用 45件, 海底深さ使用 249件]
深さ5 - 10km未満の層で活発な活動。
海士岬沖領域内で459件あり。

表3 地震活動 2007/03/25 - 2007/04/30
深さM0 - M2M3 - M4M5 - M7
0 - 5km未満1501 (内1176, 外325)55 (内50, 外5)1 (内0, 外1)1557 (内1226 外331)
5 - 10km未満3594 (内3400, 外194)181 (内176, 外5)3 (内3, 外0)3778 (内3579 外199)
10 - 15km未満1335 (内1263, 外72)87 (内86, 外1)01422 (内1349 外73)
15 - 20km未満13 (内1, 外12)1 (内0, 外1)014 (内1 外13)
20 - 25km未満2 (内0, 外2)1 (内0, 外1)03 (内0 外3)
25以上km0000
6445 (内5840, 外605)325 (内312, 外13)4 (内3, 外1)6774 (内6155 外619)
M5 - M7の領域外のデータ1件は、門前沖領域の周辺にあります。

図4 震源分布 2007/03/25 - 2007/04/30

[2023/05/05 - 2023/05/31の地震活動]

2023/05/05に珠洲沖の深さ5km(防災科研データ)で本震M6.5が発生しました。
検索データ 10677件のうち、断層沿いのデータ(震源断層領域内)は4442件 (42%)、震源断層領域外は 6235件 (58%)。[防災科研データ使用 14件, 海底深さ使用 263件]
深さ10 - 15km未満の層で活発な活動。
表4 地震活動 2023/05/05 - 2023/05/31
深さM0 - M2M3 - M4M5 - M7
0 - 5km未満941 (内452, 外489)00941 (内452 外489)
5 - 10km未満2796 (内1721, 外1075)19 (内13, 外6)3 (内2, 外1)2818 (内1736 外1082)
10 - 15km未満6454 (内2221, 外4233)77 (内30, 外47)2 (内0, 外2)6533 (内2251 外4282)
15 - 20km未満376 (内3, 外373)1 (内0, 外1)0377 (内3 外374)
20 - 25km未満7 (内0, 外7)007 (内0 外7)
25km以上1 (内0, 外1)001 (内0 外1)
10575 (内4397, 外6178)97 (内43, 外54)5 (内2, 外3)10677 (内4442 外6235)
M5 - M7で領域外のデータ3件中、2件は珠洲沖領域の周辺にあり、他1件は離れたところにあります

図5 震源分布 2023/05/01 - 2023/05/31

[2023/12/01 - 2023/12/31の地震活動]

検索データ 626件のうち、断層沿いのデータ(震源断層領域内)は95件 (15%)、震源断層領域外は531件 (85%)。[防災科研データ使用 1件、 海底深さ使用 2件]
M5以上の地震は発生していない。M3 - M4が5件、M0 - M2の微小地震621件も他の月に比べて少ない。

表5 地震活動 2023/12/01 - 2023/12/31
深さM0 - M2M3 - M4M5 - M7
0 - 5km未満17 (内8, 外9)0017 (内8 外9)
5 - 10km未満107 (内37, 外70)1 (内1, 外0)0108 (内38 外70)
10 - 15km未満471 (内49, 外422)4 (内0, 外4)0475 (内49 外426)
15 - 20km未満23 (内0, 外23)0023 (内0 外23)
20 - 25km未満3 (内0, 外3)003 (内0 外3)
25km以上0000
621 (内94, 外527)5 (内1, 外4)0626 (内95 外531)

図6 震源分布 2023/12/01 - 2023/12/31

GPSの垂直変位

国土地理院の「電子基準点日々の座標値」データから表6の基準点を選び、2022年12月から2023年12月にかけての垂直変位を調べました。各月1日から7日の標高値の平均を求め、前月との変位を求めました(図7)。
2023年5月に珠洲を中心とした地震M6.5が発生し、珠洲基準点の変位が他の基準点と異なりますが、概ね7地点とも2023年12月に向かって変位が小さくなっています。
表6 GPS基準点
No基準点コード設置場所
1富来960575志賀町
2輪島940053輪島市
3輪島2020971輪島市
4穴水020972穴水町
5珠洲950253珠洲市
6能都960574能登町
7舳倉島950252輪島市
石川県の主なGPS基準点

図7 GPS基準点の垂直変位(各月1日の前月値との差) 2022/12月 - 2023/12月

本震発生直前(2024年01月01日0時 - 16時10分21秒)の地震活動

検索データ 14件のうち、断層沿いのデータ(震源断層領域内)は7件 (50%)、震源断層領域外は7件 (50%)。[防災科研データ使用 1件, 海底深さ使用 0件]
珠洲市直下の狭い範囲で、16時6分6秒にM5.5、16時10分9秒にM5.9が発生しています。

表7 地震活動 本震発生の直前
深さM0 - M2M3 - M4M5 - M7
0 - 5km未満0000
5 - 10km未満4 (内4, 外0)01 (内1, 外0)5 (内5 外0)
10 - 15km未満7 (内0, 外7)1 (内1, 外0)1 (内1, 外0)9 (内2 外7)
15 - 20km未満0000
20 - 25km未満0000
25km以上0000
11 (内4, 外7)1 (内1, 外0)2 (内2, 外0)14 (内7 外7)

2024年能登半島沖地震 M7.6の発生

2024年01月01日16時10分22秒に珠洲市直下で本震が発生しました。 断層の破壊は、輪島沖・猿山沖へ、また珠洲沖北東へと進み、余震域は能登半島北岸断層帯を越えて、南西側の門前断層帯、北東側の富山トラフ西縁断層の一部まで広がりました。
図8は、本震の震源断層面と上盤のすべり方向です(国土地理院)。

図8 2024年能登半島沖地震の震源断層面(国土地理院モデル)

表8 2024年能登半島沖地震の震源断層面(国土地理院モデル)
断層パラメータ位置(緯度、経度、深さ)長さ走向傾きすべり角備考
断層パラ137.245°, 136.682°, 0.1km21.7km11.9km22.6°40.2°83.6°猿山沖
断層パラ237.417°, 136.875°, 0km16.2km20.8km79.7°54.4°140.7°輪島沖
断層パラ337.446°, 137.037°, 0km64.6km11.9km51.9°49.7°114.1°珠洲沖
位置は、震源断層面上端の左端

2024/01/01本震発生 - 2024/01/31の地震活動

検索データ 19948件のうち、断層沿いのデータ(震源断層領域内)は10974件 (55%)、震源断層領域外は8974件 (45%)。[防災科研データ使用 200件, 海底深さ使用 305件]
海士岬沖領域内には 204件、富山トラフ西縁領域内には 837件のデータが含まれています。
深さ5 - 15kmで活発な活動。

表9 地震活動 2024年01月01日 本震発生 - 2024年01月31日
深さM0 - M2M3 - M4M5 - M7
0 - 5km未満2414 (内927, 外1487)152 (内56, 外96)1 (内0, 外1)2567 (内983 外1584)
5 - 10km未満6502 (内4292, 外2210)470 (内352, 外118)7 (内5, 外2)6979 (内4649 外2330)
10 - 15km未満6927 (内4689, 外2238)419 (内302, 外117)10 (内5, 外5)7356 (内4996 外2360)
15 - 20km未満1803 (内324, 外1479)148 (内22, 外126)01951 (内346 外1605)
20 - 25km未満899 (内0, 外899)71 (内0, 外71)0970 (内0 外970)
25km以上112 (内0, 外112)13 (内0, 外13)0125 (内0 外125)
18657 (内10232, 外8425)1273 (内732, 外541)18 (内10, 外8)19948 (内10974 外8974)
M5 - M7で領域外の8件中、3件が珠洲沖周辺、1件が輪島沖周辺、2件が猿山沖周辺、
1件が門前沖周辺、1件が富山トラフ西縁周辺にあります。

図9 2024年能登半島沖地震の地震活動 2024/01/01 - 2024/01/31

群発地震の水平範囲

検索データから活断層の震源断層領域に含まれるデータを取り除いたデータを群発地震のデータとみなして、水平範囲を求めてみました(図10)。
・2007年3月、門前沖地震M6.9の場合、楕円の中心 37.20°、136.62°、長径25km・短径8km、面積約628km2。(回転38°)。断層沿いのデータが多く、群発性は弱い(表3)。
・2023年5月、珠洲沖で発生したM6.5の場合、楕円の中心 37.546°、137.270°、長径 15km・短径 13km、面積約612km2。(回転 40°)。震源分布の丸い形が特徴で、断層沿いのデータよりも震源断層領域外のデータが多い(表4)。
1993年2月7日、珠洲沖断層から少し北で発生したM6.6でも群発性の余震が報告されている(資料3)。珠洲周辺で群発地震が活発になりやすい。
・2024年1月、能登半島沖地震M7.6の場合、楕円の中心 37.47°、137.16°、長径 75km・短径 16km、面積約3768km2。(回転 38°)。断層面沿いにとどまらず、震源断層領域外のデータの件数が半端ない(表9)。

図10 群発地震の水平範囲


[資料1] JCG海上保安庁海洋情報部サイト 「海の情報 プレート境界域の精密海底地形図 石川・富山県沖」
[資料2] 地震調査委員会 「日本海側の海域活断層の長期評価(令和6年8月号)」
     海底断層WG「日本海における大規模地震に関する調査検討会 報告書」
     日本海検討会「日本海地震・津波調査プロジェクトによる断層モデル」
[資料3] 京都大学防災研究所年報 第37号 B-1 「1993年能登半島沖地震」


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